宮城県仙台市宮城野区新田東1丁目17−5
ピロリ菌とは?胃がんの原因とされる感染症
胃がんの原因とされる感染症
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は、胃の粘膜に生息する細菌で、日本人に多い胃がんの最大の原因とされています。世界保健機関(WHO)もこの菌を「確実な発がん因子」と位置づけており、除菌による胃がん予防が注目されています。
ピロリ菌は、胃酸を中和する酵素を出すことで、強酸性の胃の中でも生き延びる特殊な性質を持っています。感染しても多くの場合は自覚症状がないため、気づかないうちに長年にわたり胃の粘膜を傷つけ、病気のリスクを高めてしまうのです。
特に感染が長期化すると、以下のような病気を引き起こすリスクがあります。
- 慢性胃炎
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
- 胃粘膜の萎縮
- 胃がん
現在では「胃がんの多くはピロリ菌感染が関係している」とされ、国を挙げた除菌対策も進められています。
しかし、ピロリ菌は検査で発見し、治療することが可能です。除菌に成功すれば、胃がんをはじめとする病気の発症リスクを大きく減らすことができます。
ピロリ菌の感染経路
ピロリ菌の感染は、主に幼少期に起こると考えられています。
家庭内での代表的な感染経路は以下の通りです。
- 親が口移しで食べ物を与える行為
- 唾液を介した食べ物の共有(同じスプーンや箸での摂食)
- 不衛生な水や食品の摂取
このように、唾液や飲食物を介した接触が中心であり、家庭内感染が多く報告されています。 一方で、大人になってからの日常的な食器の共用や同居生活では、感染リスクはほとんどないとされています。
そのため、多くの人は幼少期に感染したまま気づかず長期間保菌しているのが実情です。
ご家族に感染者が見つかった場合は、家族単位での検査・対応が望ましいとされています。
ピロリ菌の症状
ピロリ菌に感染しても、初期段階ではほとんど自覚症状がありません。そのため「元気だから大丈夫」と放置してしまいがちですが、菌が胃に長く住み続けることで次第に胃の粘膜がダメージを受け、以下のような症状や病気へとつながります。
日常的に見られる不調
- 胃もたれ、食後の膨満感(おなかが張る)
- みぞおちの痛み・重苦しさ
- 空腹時や夜間に差し込むような痛み
- 吐き気や食欲不振
これらは「慢性胃炎」や「胃・十二指腸潰瘍」のサインである可能性があります。
潰瘍に進行した場合の症状
- 強い胃痛、夜中に痛みで目が覚める
- 黒っぽい便(消化管出血によるタール便)
- 貧血(立ちくらみ、疲れやすさ)
潰瘍が悪化すると出血や穿孔(穴があく)につながり、命に関わることもあります。
胃がんとの関連
長期感染によって胃粘膜の萎縮(萎縮性胃炎)が進むと、胃がんのリスクが大きく高まります。
- 長年の胃の不快感
- 繰り返す胃痛や食欲低下
- 体重減少
特に40歳以上でこうした症状がある場合は、早めの胃カメラ検査が推奨されます。
「症状が出るころにはすでに進行している」ケースが少なくありません。無症状だからと安心せず、一度は検査で感染の有無を確認することが大切です。
ピロリ菌の検査方法
ピロリ菌の感染有無は、以下の方法で確認します。いずれも当院で受けられる検査です。
尿素呼気試験
専用の薬剤(尿素を含む液体)を飲み、その後に袋や風船に息を吹き込みます。 ピロリ菌がいると、酵素の働きで尿素が分解され「二酸化炭素」となって息に混じるため、これを測定して判定します。
- 検査時間:約30分
- 精度:非常に高く、一次検査や除菌後の確認に多用される
便中抗原検査
便を少量採取し、ピロリ菌の抗原が含まれているかを調べる検査です。 家庭で便を採取して提出するだけなので、子どもにも行いやすい方法です。
血液検査(抗体検査)
血液中の抗体を調べ、感染の有無を確認します。 ただし「過去に感染していた場合」も陽性になるため、現在の感染かどうかを判定するには他の検査と併用されることもあります。
検査の注意点と再検査
ピロリ菌の検査では、稀に偽陰性と呼ばれる、実際には感染しているのに陰性と判定されてしまうケースが起こることがあります。とくに抗生物質や胃酸を抑える薬を服用中の場合、菌の活動が抑えられて一時的に検出しにくくなるため、検査の精度に影響します。そのため、検査は薬の影響を避けた適切なタイミングで受けることが大切です。また、医師が感染の可能性が高いと判断する場合には、より正確な結果を得るために複数の検査を組み合わせることもあります。こうした点から、単に一度検査を受けて終わりではなく、医師の指示に従って適切に検査計画を立てることが重要です。
除菌治療が終わった後には、本当に菌が除去できたかどうかを確認する再検査が欠かせません。一般的には治療終了から1〜2か月後に行い、その際に最も信頼性が高い方法は尿素呼気試験、もしくは便中抗原検査です。一方で血液抗体検査は抗体がしばらく体内に残るため、除菌直後の判定には不向きです。確実な除菌を確認することが、胃がんの予防に直結する大切なステップとなります。
保険適用
日本では2013年以降、内視鏡検査で「慢性胃炎」と診断された場合にピロリ菌検査・除菌治療が保険適用となりました。 自己負担3割の場合、検査から治療までの費用は数千円〜1万円程度が目安です。
除菌は市販薬では不可能で、必ず医師の診断と処方が必要です。
ピロリ菌の治療方法(除菌)
感染が確認された場合は、薬による除菌治療を行います。
除菌の流れ
1一次除菌
酸分泌を抑える薬(PPIやカリウムイオン競合型アシッドブロッカー)+抗生物質2種類(クラリスロマイシン+アモキシシリンなど)を7日間服用します。
2二次除菌
一次で効果がなかった場合、別の抗生物質(メトロニダゾールなど)を使って、再度、除菌治療を行います。
成功率と副作用
- 成功率:約70〜90%
- 副作用:下痢、軟便、味覚異常、発疹などが出ることがありますが、多くは軽度で一時的です。
- 服薬中は飲み忘れに注意し、抗生物質耐性菌を防ぐためにも必ず指示通りに服用することが大切です。
3三次除菌
二次でも失敗した難治性の場合に、特定施設で行われるケースもあります。
除菌治療後に注意すべきこと
ピロリ菌を除菌することで、胃がん発症リスクは大きく減少します。しかし、長年の感染で胃粘膜にダメージが残っていると、リスクが完全にゼロになるわけではありません。
そのため、除菌後も以下の点に注意が必要です。
- 定期的な胃カメラ検査を受ける(特に40歳以上は1〜2年ごとがおすすめ)
- 禁煙・節酒・減塩など生活習慣を見直す
- 野菜・果物を多く取り入れたバランスの良い食生活を心がける
「除菌して終わり」ではなく、継続的な検診と生活習慣の改善が将来の安心につながることを意識しましょう。
ピロリ菌検査に関するよくあるご質問(FAQ)
ピロリ菌の検査は痛いですか?
血液検査や呼気検査、便検査は痛みや苦痛はほとんどありません。内視鏡検査を伴う場合は多少の負担がありますが、鎮静剤を使って楽に受けることも可能です。
健康診断でピロリ菌検査は受けられますか?
多くの健診ではオプションとして追加できます。基本項目には含まれないことが多いため、希望する場合は事前に申し込みが必要です。
ピロリ菌検査は何歳から受けた方がよいですか?
感染は主に幼少期に起こりますが、胃がんリスクを考えると40歳を過ぎた頃に一度は検査を受けるのが望ましいとされています。家族に胃がんの既往がある方は、より早めの検査がおすすめです。
ピロリ菌に感染していても自覚症状はありますか?
多くの場合は無症状のままです。胃炎や潰瘍が進んで初めて胃痛や胃もたれといった症状が現れるため、症状がなくても検査が重要です。
ピロリ菌検査の精度はどのくらいですか?
尿素呼気試験や便中抗原検査は精度が非常に高いですが、抗生物質や胃薬の影響で結果が正確に出にくいことがあります。そのため、適切なタイミングで検査を受けることが大切です。
除菌後はどの検査で確認しますか?
最も推奨されるのは尿素呼気試験か便中抗原検査です。血液抗体検査は抗体が残るため、除菌直後の確認には向きません。
ピロリ菌検査はどの診療科で受けられますか?
内科や消化器内科で受けられます。地域によっては健診センターやクリニックでも簡単に検査可能です。
検査にはどれくらい時間がかかりますか?
血液検査や便検査は短時間で済みます。尿素呼気試験は薬を飲んで呼気を採取するため30分ほどかかります。内視鏡検査は前処置を含めて1〜2時間程度です。
ピロリ菌検査は保険適用になりますか?
内視鏡検査で慢性胃炎が確認された場合に保険適用されます。健診オプションや希望で受ける場合は自費となりますが、数千円〜1万円程度が目安です。
家族にピロリ菌感染者が見つかった場合、自分も検査した方がよいですか?
はい。家庭内で幼少期に感染するケースが多いため、家族に感染者がいる場合は一度検査を受けることをおすすめします。
医師からのメッセージ
ピロリ菌は、感染していても多くの方が無症状のまま経過します。そのため「自分は大丈夫」と思っているうちに胃の粘膜が傷み、胃潰瘍や胃がんといった重い病気につながることがあります。
しかし、適切なタイミングで検査を受け、必要であれば除菌治療を行うことで、将来のリスクを大きく減らすことができます。特に40歳以上の方や、胃がんの家族歴がある方、長く胃の不調が続いている方は、ぜひ一度ピロリ菌検査を受けてみてください。
「症状が出てから受診する」のではなく、「症状がなくても予防のために調べる」ことが大切です。小さな一歩が、未来の健康と安心につながります。どうぞお気軽に、当院へにご相談ください。
